京都府職員労働組合 -自治労連-  Home 情報ボックス 府政NOW 京の写真館 賃金 料理 大学の法人化



2016年05月09日

被害者なのに犯罪者扱い
〈矛盾深まる技能実習制度〉

「帰国ありき」の行政の姿

 日本のブローカーにだまされ、各地の建設現場で単純労働を強いられた外国人技能実習生がいる。逃げ出して労働組合に救いを求め「不正」を告発したが、法務省入国管理局は「自主的」(強制)に帰国を迫るかのような対応を続けている。告発からすでに10カ月。事件の経過から見えてくるのは、不正を正すのではなく本国に送り返すことで事実を闇に葬り去ろうとする、「帰国ありき」の行政の姿だ。

▲工事現場をたらい回しに

 外国人技能実習生のベトナム人男性(25)は、溶接技術を学ぶため2014年8月に来日し、広島県福山市で講習を済ませた後、鳥取県の会社に派遣された。ところが程なく島根県、秋田県と工事現場を転々と移動させられ、11月からは人手不足が深刻な宮城県気仙沼市の工事現場で鉄筋を運ぶ仕事をさせられた。日当は最低賃金ぎりぎりの5600円程度。雨で作業がない日は無給だった。

 事前に聞いていた仕事と全く違っていた。ベトナムでは短大を卒業した後、エアコン製造工場で溶接の仕事に就き、日本でも溶接の仕事をすると聞かされていた。男性は15年1月、強制帰国させられる恐れを感じ現場から逃げ、友人の元を転々とした後、6月に愛知県労働組合総連合(愛労連)に駆け込んだ。

▲ブローカーが書類を偽造

 相談を受けた愛労連の榑松佐一議長は、失踪の理由を説明するため男性とともに6月下旬に名古屋入管を訪れたところ、男性の雇用契約書が偽造されていることが分かった。「溶接」のはずの職種は「鉄筋施工」。経歴は容接でなく「建設会社」となっていた。その部分はベトナム語ではなく日本語だけで書かれ、男性は「鉄筋」を「ようせつ」と聞かされていたという。実習計画の就業場所は「受注現場」とだけ書かれていた。

 受け入れを仲介した派遣会社(ブローカー)が、虚偽の届けをしていた。実習を監督すべき受け入れ団体は派遣会社の関連団体で、実際には「名ばかり監理団体」だった。

▲帰国ありきの行政

 明らかな不正行為に対し、男性と愛労連は法務省に実態調査と技能実習のやり直しを求めた。実習生が失踪した場合でも、受け入れ団体の不正など「正当な理由」があるときは、在留資格を取り消さないと現行法で定められている。

 しかし当局の対応は鈍かった。その後何の連絡もないため9月11日には国会議員が同席して法務省などに要請を行った。「再度の実習が可能」との入管(在留課長)の答弁を引き出したが、後日入管局に問い合わせると別の担当者から「失踪したものは帰国させる。書類の偽造はベトナム(に帰国した後)で民事裁判を起こせばよい」などと言われた。「不正を正すより先に強制帰国」との姿勢だ。

 再度課長にかけあってビザ延長を認めさせ、新しい実習先も愛労連が奔走して見つけた。2月1日に書類をそろえ提出したが、通常は2週間程度で許可されるはずの申請が「本省の許可待ち」と引き延ばされ、男性の在留許可認定も先送りされ続けている。

 愛労連では3月16日、日本弁護士連合会に人権救済を申し立て、4月6日には衆議院法務委員会でこの問題が取り上げられた。しかし愛労連によれば入管当局は5月2日時点も、「(男性の)失踪に正当な理由があったか調査中」と、不作為ともいうべき対応が続いている。

安易な受け入れ拡大は危険

 ベトナム人男性の事件からは、不正な扱いに対して声を上げれば強制帰国させられかねない実習生の現状が浮かび上がる。「国際的な技能移転」という本来の趣旨とかけ離れた実態を根本的に是正しないまま、国会では実習期間の延長や介護職種への職域拡大など規制緩和と、強制帰国など本人への厳罰化を含む法案審議が進められている。

▲横行する人権侵害

 実習生は、海外の送り出し機関を経て日本側の「監理団体」が受け入れ、実習先企業に紹介される(図)。制度の目的は「技能移転と相手国の人材育成」だ。しかし実際には日本国内の人手不足を背景に、中国などアジアを中心にした出稼ぎ労働者が低賃金・単純労働に就く実態があり、米国国務省の人身売買に関する報告書のなかで「強制労働の問題がある」とも指摘されている。労働規制緩和や非正規増加の流れのなかで急速に拡大し、2015年末時点の実習生は約19万人。10年の約10万人から2倍近く増加したことになる。

 労働基準監督署の立ち入り調査(14年)では、実習生を受け入れている3918事業場のうち76%にあたる2977事業場で法令違反があった。最低賃金割れや賃金不払い、36協定を超えた長時間労働などが多く、無資格で重機を操作させて命を奪ったケースもある。
 実習期間中は労働法令が適用されるが、実習生には就労先を変える自由がない。雇い主から人権侵害や不正な取り扱いを受けても、送り出し機関に支払った高額な保証金の没収や「強制帰国」を恐れ、泣き寝入りせざるをえない実態も少なくない。

▲「適正化なき拡大」か

 今国会で審議が進む見直し法案は、規制強化と規制緩和が混在しているのが特徴だ(表)。監理団体に対する監督機関を新たに作り、人権侵害への罰則強化を盛り込む一方、実習期間を上限3年から5年に延長し、介護職へも対象を拡大しようとしている。

 4月22日に行われた衆議院法務委員会の参考人質疑では、福島大学の坂本恵教授が「実習プロセスを国が直接管理するなどシステムを根本的に是正すべき。(法案の内容では)実習生の人権侵害や営利目的の悪質なブローカーをなくすことは極めて困難」と指摘。制度の構造的な問題を温存したままの安易な受け入れ拡大に警鐘を鳴らした。

▲実習生には厳罰化

 同時に審議されている入管法の改定も問題だ。

 外国人の在留資格取り消しについて、現行の「3カ月以上活動を行っていない場合」に加え、目的以外の活動を「行おうとして在留している場合」にも資格を取り消すという。さらに現行制度にある「出国猶予期間」を置かず「直ちに強制退去手続きに移行」できるようにする内容だ。

 今回のベトナム人男性の事件のように、明らかに受け入れ側の不正によって実習を続けることができず、支援機関に駆け込んだ場合でも、猶予期間なく直ちに強制帰国させられかねない。入管当局による「強制帰国ありき」の制度運用を法律面から補強し、実習生の地位がさらに不安定になることが危惧されている。(連合通信) 

府職労ニュースインデックスへ