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2016年05月02日

「労働」にすり寄る気持ち悪さ
〈働く・最前線からの告発〉ジャーナリスト・東海林智

看板の書き換えする安倍首相

 「最低賃金を1000円にする」「長時間労働を撲滅する」「非正規の正社員化を進める」「同一労働同一賃金に踏み出す」
 安倍首相のここ数カ月の言葉だ。夏の参院選の与党公約になる可能性が極めて高い。主張はいずれも、野党(大阪維新の会などを除く)や労働組合が求めてきたもので、それぞれについては反対する理由はない。それだけに与党と闘う野党にはやっかいだ。

 労働に関する主張は同じになってしまったからと、安保法制の問題だけ(もちろん、安保法制は重大な問題だが)を訴えるわけにもいくまい。原発の再稼働やTPP(環太平洋経済連携協定)など論点は多数あるが、それでも、労働分野の争点をつぶすようなやり口は警戒しなければならない。

▲やってきたことは真逆

 そもそもこれらの主張は、転向という言葉を当てはめたくなるほどの内容だ。例えば、第二次安倍政権スタート時の雇用政策の中核に、雇用特区があった。ここでは(1)ホワイトカラー・エグゼンプション(残業代ゼロ制度)の導入(2)解雇の金銭解決(3)労働契約法の5年無期転換の無効化――を展開するとしていた。厚生労働省の抵抗もあり、特区でも一部分が実現しているにすぎない状態だが、労働の規制緩和という乱暴な政策を目玉に掲げていた。

 もちろん、それらを捨てたわけではなく、ホワイトカラー・エグゼンプションは労基法改正案として国会に出したままだし、解雇の金銭解決は導入の方向で検討を続けている。だが、明らかに看板の書き換えが行われたのだ。ある、霞ケ関ウォッチャーは、「安倍政権の政策ブレーンの経済産業省は当初、労働の規制緩和という風呂敷を広げて見せた。けれど、アベノミクスが全然うまく行かない中、『同一労働同一賃金』という国民に受けそうな逆方向の風呂敷が広げられた。それに安倍政権が乗っかったってことだ」と〃解説〃してくれた。安倍政権の同一労働同一賃金などの主張の気持ち悪さの原因はここにある。私たちの声が反映された訳でも何でもない、上からの押しつけなのだ。

▲私たち自身の力で

 4月26日、東京・日比谷でキャビンクルーユニオン(CCU)などが開いたシンポジウムは、安倍政権の策略に労働者がどんな反撃をすべきかを計らずも教えてくれた。シンポは「女性の活躍する社会を目指して」としてマタハラや解雇、雇い止めと闘う人々などをパネリストに行われた。その中で、CCUが結婚退職、妊娠退職制度の撤廃や定年延長(77年に40歳、79年に60歳)を勝ち取ってきたことが紹介された。その活動はマタハラ訴訟や不当解雇撤回など現在に引き継がれている。

 シンポを通じ、上から変えてもらうのではなく、団結して声を上げ道を切り拓くこと、女性の活躍する社会は国が導くのではなく、働く者が声を上げて変えてゆくことが必要なんだという思いが伝わった。パネリストの1人、内田妙子解雇撤回争議団客乗団長の最後の言葉がひときわ輝いた。

「私たちには未来を作る力がある」

 私たちの言葉で声を上げ、未来を作ろう。(連合通信) 

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