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2015年 5月28日

 やっぱり変だぞTPP
国内ルール壊すISD条項

文化、医薬・医療技術にも影響

 TPP(環太平洋経済連携協定)交渉をまとめようという動きが活発になるに従って、その危険性がだんだん明らかになってきた。自動車や農産物の関税問題はほんの一部。協定案は国家の主権や基本的人権をも制約する新たな国際ルールをつくるのが目的となっているようだ。改めてTPPの危なさを紹介したい。

▼ずさんな仲裁システム

 TPPをはじめとする自由貿易協定を検討している国の市民や労働者が特に問題視しているのが、ISD条項と呼ばれる投資関係のルールである。

 国家と投資家(多国籍企業)の間で起きる紛争を解決するためのもので、企業側に国際仲裁機関に訴える権利を認めている。

 「多くの人は、常設の裁判所や機関があると誤解しているようだが違う。当事者の2人と仲裁人が私的に話し合って結論を出すだけ。手続きは非公開で、仲裁人に特別な資格はいらず、企業弁護士が務めているケースが多い。結論に対する控訴はできない」

 こう指摘するのは、ISD条項に詳しい弁護士の若月浩二さんだ。このほど東京地裁に提訴した「TPP差止・違憲訴訟」の代理人弁護士である。

 手続きのお粗末さだけではない。判断基準がさらにけしからんという。多国籍企業がある国に進出して事業を始めたところ、トラブルが生じたとする。「そのときに紛争を裁く判断基準は『投資家の合理的な期待を阻害したかどうか』だ。多国籍企業の期待が基準になるなんて、そんなばかな話はないだろう」と憤る。

▼日本もターゲットに

 具体的なケースを見てみると分かりやすい。

 2011年にはドイツの脱原発方針に対し、スウェーデンの電力会社が損害賠償を求めて訴えた。原発でもうけ損なったという理由である。1990年代以降は、米企業がカナダの環境保護規制を相次ぎ提訴している。公共の福祉に関わる政策でさえ、攻撃対象になるのだ。

 ISD条項については、民主的な仕組みという誤解も根強い。独裁国家などに進出した企業が、国有化されたりする弊害を防ぐために必要なのだという。

 岩月さんは「ISD条項は古くからあるが、ここ20年ほどの間に明らかに変質した。先進国の間でも規制や法律が攻撃対象になっている」と分析する。実際、TPPで日本が外国企業から訴えられるリスクは十分あるというのだ。

 環境や健康などに関わる国内の規制・ルールを、利潤追求のモノサシで判断させていいのかどうかが問われている。

文化の発展に手かせ足かせ

 TPP(環太平洋経済連携協定)は農産物などの関税問題だと考えている人は多い。しかし、一見関係なさそうな「文化」にも大きな影響を与えることが心配されている。音楽や映画、マンガなどの著作権を過度に保護しようとしているためで、場合によっては普通の市民が逮捕される事態さえ起きかねないという。

▼ディズニー保護ルール

 著作権は、人間のアイデアで創造した成果を盗まれないように守るためのもの。日本の著作権法は音楽や小説などについて、作者の死後50年間、権利を保護している。

 一方、著作権法は保護とあわせて「活用」もうたっている。一定期間を過ぎた作品は人類の共通財産として活用し、文化の発展に寄与することも重視しているのである。

 TPPはこの保護期間の大幅延長を狙っている。なぜなのか。

 知財問題に詳しいインターネットユーザー協会の香月啓佑事務局長は、米国のコンテンツ産業の意向だと指摘する。

 「例えばディズニーは『くまのプーさん』や『ミッキーマウス』など多くの文化資産を持っている。この著作権料収入はばかにならず、期間延長でもうけを維持できるためだ」

 「プーさん」だけで年間約1000億円もの収入があり、期限が切れればこのもうけがゼロになる。それは避けたいところだろう。

 著作権の保護期間は当初14年だった。それが、ミッキーマウスの権利が切れそうになるたびに延ばして、現在欧米では70年になっている。「ミッキーマウス保護法」とも呼ばれている。

▼パロディが犯罪に

 見過ごせないのは、他人の作品を利用する「二次創作」やパロディへの規制強化だ。創造活動は、先人の成果の上に新たな工夫やアイデアを加えながら発展してきたとも言え、行き過ぎた規制は文化活動にとって望ましくない。

 著作権の期間延長がこうした活動を制約するのに加え、TPPでは「非親告罪化」が検討されている。現在、権利侵害で相手を罪に問えるのは、著作権者自身が訴えた場合に限られている(親告罪)。ところが、非親告罪化されると、著作権者が訴えなくても取り締まり(国による刑事告発)が可能になる。

 「ドラえもん」をちょっと拝借してネットにパロディ作品を投稿、あるいは新聞記事を添付して政府批判のメールを送信――こんな場合も、第3者から「悪意あり」と告発されれば、警察に捕まることがあり得るのだ。委縮を招くのは確実だ。ギスギスした社会で創造的な文化活動は期待できるだろうか。

〈メモ〉薬の特許問題

 TPPは、著作権を含む知的財産権の保護を強化しようとしている。特許権もその一つである。
 特に問題視されているのが、薬・医療技術に関する特許期間の延長だ。米国の製薬メーカーや医療業界が要求しているもので、薬の特許期間が延長されれば、安く入手できるジェネリック薬品の製造が困難になる。新たな治療技術が過度に保護されれば、その技術を利用するには高コストを覚悟する必要が出てくる。
 TPPの知財権は命に関わる問題なのである。

基本的人権をなし崩しに

 安倍政権が狙う安保関連法(戦争法案)の整備と並んでもうひとつ、重大な憲法違反が進行中だ。交渉がヤマ場を迎えているTPP(環太平洋経済連携協定)である。憲法が保障する基本的人権をなし崩しにするものだとして、5月には原告約1000人によるTPP違憲訴訟も始まった。

▼国内法は全面書き換え

 違憲訴訟は、民主党政権時に農水大臣を務めた山田正彦さんらが呼び掛けていたもの。政府に対し、交渉の差し止めを求めている。訴状はこう訴えている。

 「条約は法律に優越する効力が認められている。TPPが締結されるとグローバル企業の経済活動の自由と利益を保障するために、各条項に従って日本の国内法が全面的に書き換えられることになる」

 「(交渉対象の)21分野は国民生活のほとんどに及んでいるので国民生活に深刻な影響が生じ、憲法の基本的人権尊重原則は大きな変容を余儀なくされる」

▼生存権もないがしろに

 例えば、憲法25条が保障している「生存権」。訴状は、(1)適正な医療を受ける権利(2)安全な食品の提供を受ける権利(3)安定的な食糧供給を受ける権利――などを列挙する。

 TPPは、薬や医療技術の特許保護を過度に強化しようとしている。その結果、医療費が高騰。安いジェネリック薬品の製造も難しくなる。「保険があるから大丈夫」と思いがちだが、保険のきかない治療とセットの混合診療解禁も狙われている。庶民は体調が悪くても、簡単には医者にかかれなくなる。カネの切れ目が命の切れ目ということだ。それというのも、TPPの背後に米製薬業界や保険業界の要求があるからである。

 添加物や農薬、遺伝子組み換え作物など食品に関する表示義務も「貿易障壁」として廃止される恐れが強い。食べ物は人間が生命を維持する上での基本中の基本。安全かどうかを確かめにくくなる事態は望ましくない。背景には米化学メーカーの業界要求がある。

▼「国民益」は後回し

 貿易協定は、国と国とが「国益」をかけて話し合っているように見える。しかし、狙われているのは、多国籍企業が新たな利潤を得るためのグローバルな枠組みづくりではないか。必ずしも「国民益」が優先されているとは限らないのだ。

 違憲訴訟原告の一人、内田聖子さん(アジア太平洋資料センター事務局長)は「要は、利益をとるか命をとるかの問題」と指摘している。

〈メモ〉 
 無視される国会決議

 両院で全会一致で採択した国会決議(2013年4月)を改めて確認しておきたい。

 コメなどの重要5品目については、「(関税撤廃の対象から)除外すること」とし、「段階的な関税撤廃も含め認めないこと」を確認している。そうした「聖域」が確保できない場合は「(交渉からの)脱退も辞さない」とした。

 さらに、「国の主権を損なうようなISD条項には合意しないこと」や、「収集した情報は国会に速やかに報告し、国民への十分な情報提供を行う」よう求めている。

 いずれの項目も無視されたまま、事態が進んでいる。(連合通信) 

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