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欧米市民はなぜ反対するのか |
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雇用が流失で失業者増 |
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安倍首相は4月末に訪米し、足踏み状態が続いているTPP(環太平洋経済連携協定)交渉を前進させるために、関連する日米交渉にけりをつけようとしています。しかし、TPPで私たちの暮らしや権利がどうなるのかについては、あまり知られていません。一方で、欧米の労働組合や市民グループは、こうした自由貿易協定に反対する姿勢を強めています。なぜ反対しているのか、ポイントをまとめました。 (1)米国の労働組合はなぜTPPに批判的なの? 最大の問題は雇用です。米国は1990年代の初めにカナダ、メキシコとの間でNAFTA(北米自由貿易協定)を結びました。この協定によって、国内雇用が大幅に減少したとして、同じような協定には拒絶反応を示しているのです。 協定が発効すると、米企業は人件費の安いメキシコへ大量進出しました。そこで製造したものを米国へ逆輸入。基本的に関税はありませんから大幅にコストを削減できたのです。 さらに米国産のトウモロコシを安く輸出したことで、メキシコのトウモロコシ農家が大打撃を受け、離農者が続出。多くの人々が国境を越え、米国へ向かいました。安い労働力の流入で米国内の雇用状況は一層悪化し、失業者が増えました。米国内で失われた雇用は、NAFTAの影響だけで100万人、その他の自由貿易の影響も含めると500万人と試算されています。 労組ナショナルセンターのAFL―CIO(米国労働総同盟産別会議)は、雇用を守る立場から「NAFTAで起きた事態を繰り返してはならない」と強調しています。TPPによってベトナムなどに再び雇用が流失するのではないかという心配が背景にあります。 (2)ヨーロッパの人々が自由貿易協定に反対しているのはなぜ? 今、EUは米国との間でTTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ協定)を交渉しています。TPPの兄弟のようなものです。反対運動が一気に盛り上がったのは、食品の安全性をめぐる問題がきっかけでした。 オランダの市民グループで活動している岸本聡子さんは、「塩素チキン」によるショックを挙げます。米国産の鶏肉がEUで禁止されている塩素系の洗浄水で処理されていることが明らかになり、そこから火が付いて、残留農薬や添加物の問題にも波及。米国基準が持ち込まれたら食の安全が脅かされるという懸念が広がったのです。 岸本さんによると、英国の場合はさらに国営の医療制度(NHS)の民営化に拍車がかかることが心配されました。現在はかろうじて国営を維持しているものの、民間企業の利潤追求の邪魔になる場合は国営維持が困難になりかねないためです。日本で皆保険制度が危ぶまれているのと同じ理由でしょう。 (3)「秘密交渉反対」という訴えを聞きましたが、どういうことですか? TPPの交渉内容は、関係者以外には一切公開しないことになっています。12カ国の国民はもちろん、国会議員でさえ、その内容を知ることができません。 米国だけは最近、一定の条件の下に国会議員に公開すると発表されましたが、これは例外。ところが、米国の大企業関係者約600人は交渉の「アドバイザー」として、情報を手に入れています。 国民の暮らしや権利に関わる問題なのに、国民には内容を知らせず、大企業にはオープンにする――こんなやり方は民主主義に反すると、市民らは訴えているのです。 料理家で『サルでもわかるTPP』(合同出版)の著者、安田美絵さんは「ぼったくりバーと同じ」と批判しています。入ってみなければ、どういうものか分からないということ。とても危ない話です。 今年に入ってEUは、TTIP交渉に関する情報を一部公開することにしました。各国の国民が強く求めたためです。 「情報公開なくして民主主義なし」はいまや世界共通の常識。日本でも、TPP交渉の内容を明らかにさせる必要があります。 (4)ISD条項というのはなんですか? これも、秘密交渉の問題と並んで各国で批判の対象になっています。 投資家と国家の間で起きた紛争を解決するシステムについて定めた条文です。自由貿易協定を締結した国に多国籍企業が進出して工場をつくったり、商売を始めたりするとします。その時に、相手国の制度や法律によって「もうけ損なった」と判断すれば、企業がその国を直接訴えることができる仕組みです。 例えば、カナダのケベック州が芝の除草剤の販売・使用を禁止したところ、除草剤を販売している米国のダウ・アグロサイエンス社がケベック州を訴え、200万ドルの損害賠償を請求しました。州の禁止措置は「予防原則」に基づいた措置です。日本で後手に回った水俣病などの公害対策と違い、被害が出る前に早めに手を打ったわけです。ダウ社は「因果関係、根拠が不十分」と主張しています。 安田さんは「予防原則で禁止することが悪いのでしょうか。国民が死んでからでは遅いのです。こんな企業の言い分を聞いていたら、健康も環境も守れません」と指摘しています。 多国籍企業が訴える場所は世界銀行の下部組織である国際投資紛争処理センターです。NPO団体PARC(アジア太平洋資料センター)の内田聖子事務局長は「世界銀行自体、米企業出身者が多く、しかも審理は秘密。裁判のような異議申し立て(控訴)はできません。極めて非民主的な仕組みです」といいます。 米国やEUの労組・市民グループは、自由貿易協定の中でも特にこのISD条項を問題視し、「国家の主権を侵害するもの」と厳しく批判しています。 (5)米国やヨーロッパの人たちはどんな運動をしているの? 米国でいま力を入れているのは、徹底した国会議員攻めです。与野党を問わず、地元の有権者として議員に「自由貿易協定反対」を訴える作戦です。 米国では、企業などが要求を通したい場合はロビイストを大勢雇って議会や議員に圧力をかける手法が一般的。それに負けない運動が求められているためです。 AFL―CIOなども「TPP関連法案に賛成したら、次の選挙では支持しない。お金も出さない。別の対抗馬を出すかもしれない」と言って、TPPに賛成しそうな民主党議員を追い詰めています。 ヨーロッパでは、労組と市民グループの共闘が進んでいるのが特徴。数百団体が集まってECT(欧州市民運動)という共闘組織を結成し、署名運動に取り組んでいます。EUの規則で、1億人分の署名を集めれば、その要求を正式に取り上げて審議しなければならない制度があります。現在は約170万筆ですが、草の根の運動として各国で広がりを見せているといいます。(連合通信) |
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