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2015年 6月01日

 「目的外使用」隠すびほう策
時の問題/外国人技能実習制度法案

実習期間を3年から5年に延長

 外国人技能実習制度の活用を広げる「適正化」法案の成立が狙われています。実習機関に一定の規制をかけることで、「人身売買」との国際社会からの批判をかわすだけでなく、活用をさらに広げようという狙い。途上国への技能移転という制度の目的を歪め、人手不足対策として利用されている現状には何も手をつけていません。

法案は、実習生の第一次受け入れ機関である「監理団体」を許可制にするとともに、新たに設立する認可法人に実習計画の認定や調査、相談対応などを担わせ、国が改善命令や認定取り消しを行う仕組み。優良な業者、監理団体については実習期間の上限が3年のところ、最大5年まで広げます。

外国人技能実習制度は、主に中堅以上の企業が行う「企業単独型」と、商工会などが協同組合などの監理団体をつくり、実習生を受け入れる「団体監理型」があります。問題が多いのが後者のタイプです。

団体監理型の場合、実習生は母国の送り出し機関に多額の保証金を積んで来日します。途中で帰国したら返してもらえません。極端な長時間労働や低賃金、タコ部屋のような寮生活、理不尽な賃金天引き、逃亡を防ぐための強制貯金などの人権侵害に遭っても、強制帰国をおそれて声を上げにくいのが実情です。受け入れ企業の側からみれば、監理団体などへの多額の出費を捻出するために無理な経費削減を行うという、構造的な問題も指摘されます。

こうした問題に、新法はようやく規制を設けました。新たにつくる認可法人には関係省庁から約300人の職員が出向するとされますが、約15万人いる実習生の実情をチェックできるかは未知数。さらに問題なのは、「適正化」が、制度の目的をゆがめる活用拡大の方便とされていることです。

▼処遇改善にこそ力を

 同制度は、開発途上国への「技能移転」という国際貢献が目的です。海外への進出を考える企業が将来の人材育成のために行ってきました。しかし、団体監理型では、時には最低賃金を割り込む極端な低賃金で人手不足を補うという「目的外使用」が公然と行われてきたのです。

安倍政権は外国人労働力の積極活用にかじを切り、既に建設・造船分野で、技能実習終了後最大3年、「特定活動」として在留資格を与える制度改定を実施済み。介護分野でも、厚労省の検討会が2月、一定の日本語能力などを要件に技能実習の対象職種として追加を打ち出し、在留資格に介護を加える入管法改正案も国会に提出されています。

制度の趣旨を曲げる「目的外使用」の拡大では、実習生の失踪(しっそう)や労災事故の多発など、現場の混乱を招くのは必至。低賃金労働者の大量流入は、処遇改善の努力を損ねます。働き手不足の解消は処遇の改善以外にありません。政府はここに力を注ぐべきではないでしょうか。

相次ぐいじめ、労災、失踪…実習生受け入れ拡大で懸念

 外国人技能実習制度の受け入れ拡大について、関係する業種の労組からは強い批判が出ている。

〈介護〉
 露骨ないじめ事例も

 新たに実習制度の対象職種として検討されている介護分野。既に、二国間のEPA(経済連携協定)で、フィリピンやインドネシアから受け入れている介護労働者について、現場からは深刻な事例が報告されている。

 首都圏移住労働者ユニオンの本多ミヨ子書記長は最近、病院などで働く外国人介護労働者から受けた相談5件のうち3件は、悪質ないじめやパワハラだったという。施設管理者のおめがねにかなわない人には、「同僚が一緒に働くことを嫌がっている」「帰国した方がいい」などと迫り、うつ病に追い込んだ事例や、イスラム教信者のインドネシアの女性が、頭を覆う「ジルバブ」の着用を理由に出勤を停止されたケースも。

 病院側は日本語能力の問題や、文化の違いをきちんと考えていたのか疑わしい。人手不足で職員に余裕のないことが拍車をかけているとも推測される。こうした混乱は、外国人技能実習制度の拡大で起きる問題を先取りしているといえる。

〈建設〉
 労災事故は2倍

 「技能実習生が禁止されている解体業務に従事させられている」。東京土建の景山政行さんは違法な活用が横行する建設現場での実情をこう語る。建設業に従事する外国人技能実習生の労災発生率は、1000人当たり9・9人と、全体(5・5人)の倍に上ると指摘。今後建設現場で、日本語会話ができない実習生の受け入れが増えれば、労災事故の多発が懸念されると警告した。

 建設産業では特に若者の担い手不足が深刻だ。影山さんは、技能実習生を雇っている事業主の組合員からの聞き取りだとして、次の話を紹介する。

 「外国人技能実習生を雇っても、(監理団体に支払う)管理費は一人につき月額4万円が必要。そのほかに寮費や水光熱費などを加えると、日本の若い人を雇うのと費用はそう変わらない。実習生は言葉の壁が大きく、技術を教えることは困難。日本の若い技術者を雇いたい」

〈失踪問題〉
 悪質ブローカーが横行

 技能実習生の失踪がうなぎのぼりに増えているという。公益財団法人国際研修協力機構(JITCO)の調査では2011年度1115人だったのが、13年度には2822人に倍増。法務省によると、現行制度になった10年の1282人が、14年には4851人と過去最高になっている。

 背景には、為替レートの急激な変動と、非正規雇用の求人難がある――。トヨタを頂点とする愛知県で長年、外国人研修生や実習生の相談対応、救済に携わってきた、愛労連の榑松佐一議長はこう語る。

 「月3万円の仕送りは母国ではほぼ1カ月分の賃金。為替相場の変動でフィリピン・ペソで6割、ベトナム・ドンで7割程度に目減りし、家族は大幅な減収となる。失踪の背景には、そこにつけ込むブローカーの存在と、監理団体への費用を減らしたい中小零細企業の事情がある」

 最低賃金の地域間格差も影響する。たとえば愛知は800円だが、隣の岐阜は738円。年間2000時間働けば12万円もの差が出る計算。母国の生活を考えれば大きな額だ。少しでも仕送りを増やしたい実習生に、日本人ブローカーが巧みに近寄り、実習先から引き抜いて不法就労をさせるという図式である。

 この日本人ブローカーの問題は「適正化」法案で特に対策が取られていないという。外国人労働の問題を研究し、実習生をサポートしている坂本恵福島大学教授は、「日本人ブローカーへの有効な対策は、今回の入管法改正にも(適正化の)新法にも見当たらない。野放しにする責任は免れない」と指摘している。(連合通信) 

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