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2015年 8月17日

交渉妥結は永遠に無理?
TPP閣僚会合の真実

日米で自由貿易協定を締結するケースも

 7月末の閣僚会合(ハワイ州マウイ島)でもTPP(環太平洋経済連携協定)交渉の大筋合意は見送られた。情報収集などで現地を訪れた内田聖子さん(アジア太平洋資料センター=PARC事務局長)らは「TPPは既に漂流している。ただし、日本の私たちにとっては素直に喜べない事情もある」という。8月5日にPARCが東京で開いた報告会から、今回の閣僚会合の意味を考えてみた。

▼大国本位の流れに反発/メキシコやNZ

 内田さんは、合意先送りの背景をこう指摘する。

 「ニュージーランド(NZ)が突然、乳製品問題で無理な要求を突き付けたことが原因のように言われています。日本のメディアはほとんど書いていませんが、最初に火の手を上げたのは、自動車関税での日米合意に反発したメキシコ。それが他の分野にも波及してドミノ現象が起き、収拾がつかなくなったのです」

 自動車の関税では、原産地規制が大きな焦点。例えば、日本が米国に自動車を輸出する場合、部品をどこの国から調達したかが問題とされる。一定割合以上は国産かTPP参加予定国から調達すべきとし、その基準を定めることになっている。全体会合では、日米が合意した40%台後半を持ち出したところ、メキシコがNAFTA(北米自由貿易協定)の62・5%を突然主張。これがきっかけになって「じゃあ、うちも言わせてもらおう」と各国がいろいろ発言し始めたのだという。

 メキシコにとって、自動車はいまや主要産業の一つであり、日米で勝手に合意してそれを押し付けられては困るのだ。

 この様子を見て勇気を得たのがニュージーランド。米国はカナダとの乳製品の関税交渉がうまくいかず、14カ月前にNZと合意していた乳製品自由化の水準を引き下げた。これにぶち切れたのが真相だと見る。「最初にちゃぶ台をひっくり返したのは米国です。NZはある意味、真面目に国益を主張しただけ。逆に国益を譲ってばかりの日本政府に彼らを批判する資格があるのかと言いたい」(内田さん)。

大筋合意は遠い話

 メキシコもNZも、米国や日本、カナダなどの大国間で進められている2国間協議と、その合意を全体に押し付けてくる態度に激怒したのだという説明だ。
 さらに内田さんは、こう打ち明ける。
 「現地に行ってみて驚いたのは、全体での閣僚会合はほんの一部。ほとんどの時間は2国間協議に当てられていました。全体が合意できるレベルには至っていないのです。それを無理やり『大筋合意した』と演出しようとしたものの、やっぱりだめだったということでしょう」

▼日米合意はなくならず/TPP漂流でも

 TPP交渉は今後どうなるのだろうか。かぎを握るのは交渉を主導する米国の動向だが、「米国議会の手続きの関係から言えば、年内承認はもう無理です」(内田さん)という。

・年内承認は不可能

 貿易問題を監視している米国の市民団体「パブリックシチズン」によると、米議会で年内承認を得るには、大筋合意して8月1日までに大統領が「調印の意思」を議会に通告する必要があった。諸手続きを定めているTPA法(ファストトラック法)の規定から逆算した日程である。さらにその30日後(8月30日)までに合意済みのTPP文書を公開しなければならず、少なくともこの時点までに公開できる中身が完成していなければならない。こうした日程をクリアしたとして、やっと12月14日の週に議会承認が可能になるという。このスケジュールは今回の大筋合意見送りで既に不可能となった。

 2016年の年明けにずれ込む場合、本格化する大統領選挙と国政選挙でTPPどころではなくなる可能性が指摘されている。既に「大統領選挙が終わってからの話」という声も聞こえ始めた。

 事実上、TPPは漂流していると言っても間違いではない。問題は日本だ。

 内田さんは「今後もずっと漂流し続ける可能性があります。形だけ残っているけれど、実際には機能していないWTO(世界貿易機関)のように。ただ、この間進められてきた日米協議の内容は実行されていくのではないでしょうか」

 つまり、米韓FTAのように日米で自由貿易協定を締結するケース、あるいは、日本政府が率先して合意内容を国内で具体化していくケースが考えられるのだ。

 内田さんと一緒に現地を訪れた元農水相の山田正彦さんも、「日米協議では、農産物以外のものを含めて既にほぼ合意ができているのではないか。しかも日本側が大幅譲歩した水準で。これらの合意は、TPPが漂流したからと言ってなくなりはしない。政府は戦略特区などを使って具体化してくるだろう。油断できない」と警鐘を鳴らしている。〈連合通信〉 

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