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12年かけて認定勝ち取る |
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当事者の声が行政動かす |
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職場でセクハラの被害に遭っても、報復や二次被害を恐れて告発できず、被害者が退職に追い込まれるケースは珍しくない。そんななか、セクハラ被害による深刻な精神障害を負い、裁判で闘って労災を勝ち取った人がいる。パープル・ユニオン執行委員長の佐藤香さんだ。この裁判がきっかけとなりセクハラ労災の認定基準が見直された。佐藤さんは「セクハラは労災であり、迅速な救済が必要。被害者が社会から排除されるようなことがあってはならない」と訴えている。 ▼会社は具体的対応せず 佐藤さんは2001年、北海道の通信会社に派遣されて電話受付業務に従事。3年目に新人研修のインストラクターを任された。その直属の上司から、退職に追い込まれるまで2年半以上にわたりセクハラ被害を受けた。 「愛している」などのメールを送られたり、しつこく食事や旅行に誘われた。断ると無視をする、業務上の連絡をしないなどの嫌がらせを受けた。タクシーの車内で手を握られ唇を押し付けられるなど、被害は次第にエスカレートしていった。 病院の心療内科では、「適応障害」「うつ状態」と診断された。佐藤さんはやむなくインストラクターの職を降りたが、事態は改善しなかった。別部署にいる加害者が内線電話をかけてくるようになったのだ。常に「気配」におびえ、仕事に集中できなくなっていった。 被害が1年半続いた後、セクハラ・パワハラの事実を派遣会社に報告した。しかし会社からは「話を聞くことしかできない」と言われた。その後、派遣先やそこの組合にも相談したが、「前のようにうまくやってくれ」と言われ、具体的な対応は何もなかった。 次第に通勤できなくなった。会社の駐車場に到着すると、身体が動かず、ハンドルから手を離せない。大型スーパーで時間をつぶし、夕方何もなかったように家に帰った。2人で暮らす母に心労をかけられなかった。 ▼命の危険感じ退職へ ある日家に帰ってカバンを開けると、ナイフとロープが入っていた。ホームセンターで買ったことを全く覚えていなかった。過度なストレスにより精神が解離状態を起こし、自殺の準備をしていながら記憶が抜け落ちていた。命の危険を感じ、06年に会社を退職した。 退職後、一時症状は落ち着いたが、再び疲労感や頭痛、不安感に悩まされ、加害者が夢に現れて震えながら目が覚めるといった状態が続いた。継続して働ける状態ではなかったため、不定期で結婚式の司会の仕事を始めた。知り合いの選挙事務所でもアルバイトをしていたところ、職場で男性が近くにいるだけでフラッシュバック(恐怖体験が突然甦る症状)が表れ、就業が困難となった。生活を維持していく必要があり、通院治療を続けながらも司会の仕事は続けていた。 ▼長い道のりだったが 佐藤さんは退職後、後遺症のために他の職場で継続して就労できなかった。その期間の休業補償を求めて労災を申請。労災と認められた場合、働けない期間の治療費や休業補償が支給される。しかし労災とは認められず、審査請求、再審査請求ともに棄却された。 セクハラによる労災は申請自体が少なく、認定の際の重要な判断指標となる「心理的負荷の強度」について「中」程度(弱・中・強の三段階で、「強」と判断されることが認定の要件)とされていた。また精神障害の場合、発症前6カ月以内の業務上の要因が勘案される(6カ月ルール)。佐藤さんの場合、発症前よりも発症後にセクハラ行為がエスカレートしており、発症前を重くみる6カ月ルールでは認定されにくかったのだ。 2010年1月、国を相手に東京地裁へ提訴。セクハラ労災補償を求めた国内初の行政訴訟だった。佐藤さんは実名を公表し、支援者とともに国会議員や厚生労働省への働きかけを行った。その年の11月に国は一転して労災を認定した。 しかし、3カ月間アルバイトをしていたことを理由に、退職後のほとんどの請求期間について、休業補償が認められなかったため、再び提訴。長い裁判となったが、通院時のカルテに記録された症状の訴えなどにより「実際に症状が治っておらず就労不能だった」と認められ、今年6月にすべての期間の補償が決定した。 セクハラ被害を受けてから、足かけ12年におよぶ闘いだった。 佐藤さんの闘いは、この問題への理解ある国会議員の存在もあり、セクハラの労災基準見直しの動きにつながっていった。 ▼セクハラ基準見直しへ 国が佐藤さんに労災を認めた直後の11年2月、精神障害の労災認定に関する厚生労働省の検討会にセクハラ問題を議論する分科会が設置され、同年6月に報告書をまとめた。 精神障害の労災事案を検討する場合、対人トラブルなどの出来事による「心理的負荷の強度」が問題とされる。ところが、セクハラのケースだとこの強度が基本的に「中」とされてきた。そのことがこれまで認定を阻んできた。11年の見直しでは具体例に基づいて「強」と判断できる基準が定められ(表)、認定への道が開かれた。 評価期間について、発病前6カ月以内を重視する「6カ月ルール」は基本的には変わらなかったが、6カ月以前から継続して行われたセクハラ行為も勘案する方針が示された。 当時この分科会の委員を務めたお茶の水女子大学名誉教授の戒能民江さんは、「被害当事者の視点から基準を見直したのは画期的」と振り返る。例えば、認定に当たっての留意事項として、被害を軽減するために被害者がやむなく加害者に迎合するようなメールを送ったことを、安易に「同意」と判断しないなど、当事者や女性(ジェンダー)の視点が重視されている。 見直しにより、セクハラは精神障害の独立した評価項目となり、認定状況も以前より改善した。04~09年度の6年間の合計では申請が77件、認定はわずか22件だったが、13年度の1年間で52件の申請のうち認定は28件、14年度は47件中27件と数倍に増加している。しかし、認定率は半分程度でまだ高いとはいえない。戒能さんは「実際の認定の現場で、新基準がどのように運用されているか、継続したチェックが重要。基準見直しを今後にどう生かしていくかが問われている」と指摘する。 ▼被害者救済する社会へ 佐藤さんは11年8月に、セクハラやパワハラを受けた女性のための個人加盟の「パープル・ユニオン」を設立。執行委員長として労働相談などの活動を行っている。派遣社員など立場の弱い非正規労働者が被害を受けやすいという現状も訴えている。 同ユニオンの主催で一連のセクハラ労災訴訟の報告集会を今年6月29日に開催。佐藤さんは「(セクハラ労災認定の)壁は本当に厚かったが、弁護団や支援者とともに勝ち取った勝利」と振り返った。性暴力被害者への社会の理解はまだまだ不十分な状況だと現状を指摘した上で、「(支援者との歩みの中で)命を救われた一人として、今後も発言を続けていきたい」と決意を述べた。(連合通信) |
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