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2015年 6月23日

舞台は参議院へ
派遣法審議の未解決課題(上)

いい加減な説明は許されない

 労働者派遣法「改正」をめぐる衆院審議では、「正社員化を促す」「労働者保護を進める」などの政府の説明のいい加減さが明らかになった。参院での課題を考える。

▼不十分な雇用安定措置/実効性ない労働者保護

 今回の法「改正」で、派遣先企業は人を入れ替えさえすれば、何年でも派遣労働を利用できるようになる。業務単位で規制する現行制度からの大きな転換となる。政府は派遣会社に「雇用安定措置」を義務付けるので「労働者保護に資する改正だ」というが、実効性はほとんどない。

 派遣会社には、(1)派遣先への直接雇用の依頼(2)派遣元での派遣労働者ではない無期雇用(3)新たな派遣先の提供(4)その他――のいずれかを選べばいいという内容。それぞれ見てみる。

【選択肢(1)――派遣先への直接雇用】

 政府が目玉として押し出すのが、派遣会社が派遣先企業に直接雇用を依頼するという選択肢だ。だが、派遣先企業による雇い入れは努力義務でしかなく、罰則はない。仮に派遣会社が要請したとしても派遣先に断られればそれまでだ。

 法案では、3年の派遣見込みがある場合、派遣会社は必ず直接雇用を依頼しなければならないが、1年以上3年未満だと努力義務にとどまる。「勤続3年を迎える前に雇い止めにされる場合はどうなるのか」という山井和則衆院議員(民主)の質問に対し、塩崎恭久厚労大臣は「努力義務が適用される。罰則はない」と答えるしかなかった。

 参考人として厚労委員会で証言した廣瀬明美さんは「派遣先から正社員化を要望されていたが、派遣会社に妨害された。派遣会社の営業社員は自分の営業成績を上げるために派遣社員を手放したがらない」と語る。直接雇用は派遣会社にとっては損失。本当に直接雇用をさせたいならば強い規制が必要だ。

 直接雇用規定は、実効性のない「ザル法」である。

【選択肢(2)――派遣元での無期雇用】

 派遣会社が自社の内勤社員として派遣労働者を雇い入れるという選択肢だが、非現実的だ。

 2012年の国の調査によると、派遣労働者を内勤社員や管理職に転換させた派遣会社は「事業所ベースで約4%」。人数ベースは調べてもいないという。

 「改正」案の根拠の乏しさと、実態調査も行わないあり様に、問いただした阿部知子衆院議員(民主)はあきれ顔だ。
 現実離れしたこの選択肢は、まさに「絵に描いた餅」だろう。

【選択肢(3)――新たな派遣先の提示】

 これは派遣会社の通常業務に過ぎない。問題は、提供する仕事について、「合理的なものに限る」とする規定の内容だが、審議はまだ尽くされていない。
 山井議員の質問に対し、塩崎大臣は「日雇い派遣ではない人が日雇い派遣になれば合理的ではない」と答弁。では「時給が2割減の場合はどうか」との問いには答えられず、「個人を強くしていくしかない」と、派遣労働者の自己責任論を展開した。
 自由化業務で働く40代の女性は、「『派遣切り』に遭ったが、『次の派遣先を必ず紹介するので、年休は使い切らないで』と言われた。2カ月後、時給が300円下がり、通勤時間が1時間半の職場を一つだけ紹介された」と語る。この場合は合理的といえるのだろうか。

▼常用代替防止が骨抜きに/組合は歯止めにならず

 派遣労働という、雇用主と実際の使用者が異なる間接雇用は、人身売買や不合理な搾取をもたらすなど弊害が大きいため、戦後厳しく禁止されてきた。派遣法が1985年に制定された際には、派遣労働が直接雇用を侵食しないように、専門性が高く、一時的・臨時的な業務に厳しく限定されていた。これが「常用代替防止」の原則だが、今回の「改正」で崩されようとしている。

 これまで事業所ごとに最大3年だった派遣受け入れ制限は、「改正」により、過半数労組の意見を聞けば半永久的に延長できるようになる。政府は延長の前に労組に意見聴取する仕組みがあるので派遣は増えないと説明する。

 しかし、必要とされているのは、過半数労組の「同意」ではなく、組合の意見を聞くだけでいい。それでも政府は「歯止めになりうる」と言うが、国の調査によると、現行法下で「派遣期間を1年から延長すべきではない」と主張した組合はわずか1・2%に過ぎない。

 では、組合が派遣を延長させないために、戦術として意見聴取を拒否した場合はどうなるか。堀内照文衆院議員(共産)の問いに厚労省の担当者は「(使用者が)手続きを怠ったとは考えにくい」と述べ、使用者の責任ではないから延長は可能との見方を示した。
 政府のいう歯止めには効果がない。

▼なぜ「人」単位の規制に/上から目線のおかしな議論

 人を入れ替えれば何年でも派遣労働を使えるようになるというのが今回の「改正」の柱。業務ごとの規制区分をなくし、「人」ごとの規制に変える理由について、塩崎大臣は「派遣の固定化を防止するために3年で見つめ直しをしていただく」という答弁を繰り返した。

 派遣で働き始めると、低賃金で就職活動がしにくく、十分な教育訓練も受けられないため、抜け出しにくいということが、2000年代半ば頃から指摘されてきた。08年末の「年越し派遣村」以降、派遣の固定化から抜け出すには、派遣労働を厳しく制限し、不安定な雇用を増やさないよう、規制強化が必要という流れの中で民主党政権時の法改正が進められた。

 だが、政府の説明は、派遣から抜け出せないのは派遣労働者の側に責任があるかのように聞こえる。政治の責任を棚に上げ、「キャリアを見つめ直せ」と迫るのはおかしな議論だ。

 元々、「人」単位の規制を主張していたのは、派遣業界と経済界。労働者のためというが、狙いは「使いやすさ」「切りやすさ」にあるのだろう。
 当然、当事者の評判はかんばしくない。専門業務の40代男性は「同じ職場に5年勤務しても、まだまだ分からないことがたくさんある。3年で職場を転々とすることをキャリアアップなどというのはとんでもない発想。大迷惑だ」と話す。

▼これでキャリア向上?/教育訓練の中身は不明

 「改正」案のもう一つの目玉が、派遣会社に義務付けた教育訓練措置。しかし、「計画的な教育訓練」「キャリアコンサルティング」というだけで、内容は審議でもほとんど検討されていない。最低限どんな内容を整備しなければならないのかが全く不明だ。

 派遣労働者は複数の派遣会社に登録する。ライバル他社の働き手にもなり得る派遣労働者の教育訓練に、派遣会社がきちんと投資をするだろうか。西村智奈美衆院議員(民主)はこの点を指摘し、「(改正案では)派遣元にインセンティブやメリットはなかなか生まれない」と追及したが、塩崎大臣の答弁ははぐらかしに終始した。

 自由化業務で働く50代女性は「教育訓練プログラムにかかる費用は自腹で20万~30万円かかる。給料をピンハネしておいてさらに講座料もピンハネする『二重の搾取』だ」と派遣会社の教育訓練には懐疑的だ。

 また、「キャリアアップを行って賃金などの処遇を向上させる」という政府の説明も一面的だろう。資格を持ち、実務能力があっても賃金が上がるとは限らない。賃金交渉や権利行使が難しいという派遣労働の特性があるためだ。政府の答弁からは、そんな厳しさへの認識が全くうかがえない。(連合通信)

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