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2015年 6月09日

正社員は一握りだけになる
西谷敏大阪市大名誉教授

派遣法制定時の懸念が現実に

 労働者派遣法改正案の国会審議が紛糾するなか、日本弁護士連合会が6月4日に開いた院内集会で、大阪市立大学名誉教授の西谷敏さんが改正案について報告し、「一握りの正社員と大多数の派遣社員になるという、30年前の法制定当時の懸念が現実のものになる」と警告した。派遣大手パソナグループの竹中平蔵会長が政府の諮問会議に入り、露骨な利益誘導が展開されたことにも言及、「政治の堕落(だらく)」を指摘した。〈西谷さんは「ディーセントワークを求める力をいかにして廃案に結び付けていくかにかかっている」と奮闘を呼びかけた(6月4日、国会〉

▼派遣拡大に歯止めなし

 労働者派遣は、賃金の中間搾取や人身売買、不安定雇用などの弊害が大きく、一時的・臨時的業務に限定されてきた。長期にわたって働き手が必要ならば、直接雇用すべきという仕組みである。

 西谷さんは制度の基本を説明したうえで、「改正案には『派遣就業は臨時的一時的なものであることを原則とする』と書かれているが、中身は全く矛盾した規定に満ちている」と指摘。派遣先労働者の意見聴取を義務付けることで、際限のない派遣の活用に歯止めをかけられると言う政府の説明に対し、「ただ意見を聞けばいいだけ。引っかけというか、誤解を与えるものだ」と、姑息(こそく)な狙いを批判した。

 改正案が成立すれば、企業にとっては、派遣労働者をいつまでも使い続けられるようになり、要らなくなればいつでも首を切れるようになる。その影響について、西谷さんは「正社員を減らして派遣労働者に置き換える傾向が促進される。労働者の働き方は劣化し、30年前に考えられた、将来の危険性についての指摘が現実のものになるだろう」と警告した。

▼業界による利益誘導

 今回の「改正」に最も熱心なのが人材派遣業界だ。第二次安倍政権の発足を機に、竹中パソナ会長が政権の諮問会議のメンバーとして復帰し、派遣規制を強化の方向から緩和へと舵を切らせたのだ。

 西谷さんはこうした法案の制定過程も問題視し、次のように語った。

 「業界の中心メンバーが政府機関の中枢を占め、業界のためのあからさまな利益誘導がこれほど露骨に展開されたことは、かつてなかった。そこまで政治が劣化し、堕落しているということだろう。日本の将来の雇用にとって、極めて不透明なやり方で議論が進んでいることに、強い疑問を感じる」


「みなし規定」で救済例増加/派遣の敗訴事例分析/改正案成立すれば台無しに 

 違法派遣を行った派遣先に雇用を義務づける「みなし雇用規定」(10月1日施行予定)が適用されれば、労働者が敗訴した21事例のうち、3分の2が救済される――。こんな事例検討の結果が日弁連の院内集会で示された。報告したのは、日弁連貧困問題対策本部の塩見卓也弁護士。この問題での詳しい論文が8月上旬発行の「労働法律旬報」に掲載される。

 偽装請負や期間制限違反など、「違法派遣」をめぐる裁判では近年、労働者側の敗訴が続いている。転機となったのが、偽装請負事件で原告が敗訴した松下プラズマディスプレイ最高裁判決。この裁判を担当した村田浩治弁護士らが中心となって、これ以降に出された判決で入手した全ての事案を検討した。

 それによると、労働者が敗訴した21事例のうち14事例で、みなし雇用規定による救済が可能になるとの結果が示された。同規定が違法派遣への強いペナルティーになりうることが推察される。

 しかし、今国会で審議中の派遣法改正案が成立し、9月1日に施行されれば、ほとんどが救済されなくなるとも指摘する。

 改正案の成立によって、現在の「専門業務偽装」の違法派遣は全て適法になるため、14事例のうち4事例が対象外に。それ以外の多数を占める「偽装請負」の事案では、改正案の施行によって、派遣の期間制限が事実上なくなるため、派遣規制逃れを目的とする「偽装請負」は激減することが考えられる。そのため、塩見弁護士は「勝訴事案がなくなる」と語る。

 せっかくの「みなし雇用規定」の威力を封印する今回の改正案。その狙いが、「違法企業の免罪」にあることがいよいよ明白になってきた。(連合通信)

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