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2015年 6月29日

本物の社会保障をこの手に
年金者組合 田中諭副委員長に聞く

「年金裁判」と生存権

 「年金引き下げは違憲」として国に減額の中止を求める「年金裁判」が全国で始まった。年金減額は、憲法25条で保障されている「健康で文化的な最低限度の生活」を侵害するとして全日本年金者組合が呼び掛けたもの。これまでに23都道府県で計2602人が原告となっている。年金生活者がいま生存権を問う意味とは何か。田中諭副委員長に聞いた。

 ――今回全国規模の裁判に踏み切ったのはなぜですか?
 田中 直接的には2013年10月から実施された1%の年金減額の違憲性を問うためです。年金制度は、国民がそれぞれ決められた金額を納めることで生活が保障されるという、国との契約です。減額によって生活の保障が不可能になるのであればそれは契約違反であり取り消すべきです。加えて、今年4月に発動した年金減額のマクロ経済スライドの廃止を求めています。国の政策によって損害は全年金受給者に及ぶため、今回全国提訴での裁判に起ちあがりました。

 ――年金裁判で生存権を問い直すということは?
 田中 際限ない年金引き下げによって、憲法25条の生存権が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」が脅かされる事態になっています。多くの高齢者は年金が命綱です。減額によって生活困窮が引き起こされるのは生存権の侵害に当たります。

 ――実際どんな困窮が起きているのでしょうか?
 田中 国民年金のみの場合、支給される年金は月6万円程度です。ここから保険料などが天引きされて、手元に残る額はさらに少なくなります。マクロ経済スライドによる年金減額で、この先さらに苦しい生活を強いられるのは必至です。ある女性は「この年金ではとても暮らしていけない」と生活保護を申請しようとしましたが、離れて暮らす子供達に「私たちが仕送りをするから」と止められたと言います。土地や家があると財産とみなされ、生活保護にたどり着けない例もあります。

 ――困窮は年金減額だけが原因ですか?
 田中 それだけではありません。高齢者にとって医療、年金、介護はセットで語られる問題です。どれか一つに問題があれば生命に関わります。年金が減額されたうえに医療費が高騰すれば、節約のためにと病院に行かなくなってしまう。社会保障が機能せず健康を保てない高齢者が増加しています。

 ――政府の社会保障政策はどう思いますか?
 田中 安倍政権の「社会保障」は、本来の意味の社会保障ではなく「自助・共助」を進めることです。これは憲法25条が定める生存権とはまったく異なるもの。誰もが安心して暮らしていくための権利が保障されていません。

〈用語解説〉
 生存権 憲法第25条に定められている重要な国民の基本的人権です。「健康で文化的な最低限度の生活」を営む権利を定めるとともに、政府に対し、社会福祉や社会保障の向上や増進に努めることを義務付けています。この25条の意味について、弁護士の伊藤真さんは「国家に依存して貧困を救済してもらう恩恵的権利というよりむしろ、理不尽な政策や社会構造自体を排除する権利なのです」と説明しています。

■現役世代の未来の問題だ

 ――年金減額は「将来世代の年金を確保するため」と政府は言っていますが?
 田中 実態はまったく違います。いま高齢者の年金を減額しても将来世代の年金は確保できません。マクロ経済スライド発動でこの先30年間年金水準が下げられれば、その頃の現役世代が受け取る基礎年金は3割も減ることになります。

 ――高齢者だけの問題ではないのですね?
 田中 むしろ、現役世代にとって最も重大な問題といえます。政府は「高齢者にも痛みの共有を」と言っていますが、実際には将来年金を受け取る現役世代を犠牲にする政策です。保険料を納めても、将来生きていけないような額しか受け取れない。それでは若者が未来に希望を持つことなどできません。

 ――現役世代からの反応は?
 田中 現役世代からも事態は深刻、という声が上がっています。不安定雇用から安定した雇用の確保こそ、安心できる社会保障の重要な課題です。全ての人が一定の年金を受給できる仕組みである「最低保障年金制度」の確立に向けての運動でもあります。破たんした年金制度をこのままにしておくわけにはいきません。若い人たちが希望を持てる年金制度を作るために今動くのが、私たち高齢者の責任ではないでしょうか。

 ――年金裁判の今後の展開は?
 田中 全国の45都道府県で裁判を行います。年金と生存権をめぐってここまで大きな運動が起きたことはかつてありませんでした。それほど今、生存権と社会保障制度が危機にあるということです。長期的な運動になるでしょうが、今回の裁判で幅広い世代に問題提起できると思っています。

〈用語解説〉
 マクロ経済スライド 毎年の年金アップ率を物価や賃金の上昇率より低く抑えるため、「スライド調整率」という数値を設定、これを差し引いて年金の給付水準を下げていく仕組み。保険料を払う現役世代の減少率と、平均余命の延びに基づいて求めます。実質的に年金の価値を下げていく制度で、30年後は国民年金が3割、厚生年金も2割減ると予想されています。

〈用語解説〉
 最低保障年金制度 全日本年金者組合が提案している制度は、全額国庫負担による「最低保障年金」(月額8万円、保険料なし)を1階部分としています。その上に、収めた保険料に応じて受給できる年金額を2階部分としてプラスする仕組み。これを「基礎年金の税方式化」といいます。(連合通信)

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