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2015年 6月22日

「求職者が望む訓練できるのか」
民間委託進む公共職業訓練

指導歴41年の講師が懸念

 失業者が安定した仕事に就けるよう、国や自治体が行っている公共職業訓練。その業務を民間に委ねる動きが各地で進められている。東京都は4月、就職率8割を超える人気講座「CAD製図科」を廃止し、同等の訓練を民間に委託した。41年間、同科で講師を務めてきた中嶋祥子さんは、「安易な民間委託で求職者の望む訓練が維持できるのか」と懸念を示す。

 中嶋さんは1974年4月に講師職に就き、昨年12月まで「職業能力開発センター江戸川校」で製図などを担当してきた。その経験から、単に技術を教えるだけという姿勢では訓練校講師は務まらないと話す。

 訓練校の門を叩く求職者は、言われたことをすぐにこなせる優等生ばかりではない。授業に追い付くのが困難な訓練生も少なくなかった。そんな時には授業時間外に個別指導を重ね、「卒業」まで面倒をみた。「つまずく訓練生を励まし、寄り添い続けてきた。ここでしか救われないような人たちに、手を差し延べるのが職業訓練校の役割だ」と力を込める。

 小さな子どもの母親だったある訓練生は、子どもが保育所に入所するまでの数日間、託児の場がなく悩んでいた。中嶋さんは教室に子どもを連れてきてもいいと許可し、小さな子に目を配りながら訓練を行った。「今ではこういったやり方がいいかはわからない。でも、技能を学びたい、仕事に就きたいという求職者の思いを叶えてあげたいという思いで取り組んできた」と振り返る。

▼全国は民間実施7割

 中嶋さんが務めていた「職業能力開発センター」は、都が運営する公共職業訓練校。職業能力開発促進法に基づき、主に雇用保険受給資格者が対象だ。

 公共職業訓練は公立の訓練校で実施されるものと思われがちだが、今では簿記や介護の資格取得をめざす講座を中心に、民間企業や専門学校が実施する「委託訓練」型が各地で増加している。

 2012年度には、全国の受講者の7割を越える約11万人の訓練が民間で実施された。同年の全国就職率を見ると、訓練校修了者は81%で、委託訓練修了者は69・2%。訓練校の実績は数値上も明らかだが、それでも民間委託の流れは止まる気配がない。

 東京都でも委託化が進行。14年度には18科目、計1520人の訓練が民間で行われた。加えて都は今年度からCAD製図科を廃止してしまった。

 中嶋さんは、効率や業績を最優先する民間企業が訓練を担えば、職業訓練の質が問われなくなる恐れもある。そうなれば、本来の公共職業訓練とは言えないだろう」と指摘している。

組合つぶしの意図は明らかCAD製図科の廃止・雇い止め

 東京都は3月、公共職業訓練校の「CAD製図科」を廃止し、東京公務公共一般労組の中嶋祥子委員長を含め34人の講師を雇い止めにした。組合リーダーを狙い撃ちにした支配介入であるとして、公共一般は5月、都労委に不当労働行為の救済を申し立てた。東京地裁にも委員長ら3人の地位確認などを求めて提訴している。

 公共一般は、都内の自治体や関連職場で働く非常勤職員を組織する組合で、職業訓練校にも支部がある。訓練校の非常勤講師は、地方公務員法の適用が除外され、労組法上の団体交渉権が認められる「特別職」にあたる。

 訴状などによると、東京都は昨年10月、中嶋委員長が務めていた「CAD製図科」を14年3月末で廃止すると通知した。組合への事前の情報提供はなかった。さらに、中嶋委員長には12月以降の出勤を禁じた。他の職員との接触を妨げるのが目的と思われる。 

 訓練校ではこうした場合、慣行として他部署への配置転換などが行われてきた。組合は雇用継続を希望する組合員のリストを提出し、配置転換を含む再任用を求めた。

 だが、当局はリスト外の講師について委託先民間企業へのあっせんや配置転換を行ったものの、組合が求めた希望者の雇用継続は退けた。交渉の末、中嶋委員長だけは他校での4月以降の再任用が認められたが、年間の勤務時間は20分の1に減らされ、形ばかりの「雇用継続」でしかない。

▼団交権への攻撃だ

 公共一般はこれまで、非常勤職員の雇い止め問題を重視し、当局を追及する中で多くの成果もあげてきた。

 この問題では組合に有利な決定が昨年、最高裁から出されている。訓練校講師と同じ「特別職非常勤職員」である都の消費生活相談員が加入する組合(消費生活相談員ユニオン・公共一般加盟)との団体交渉について、「管理運営事項においても、職員の雇用に関わることは義務的団交事項(交渉に応じなければならない)である」との決定を下していたのだ。

 都は過去24年間、公共一般との誠意ある団交を避け続けてきたが、この決定によって、契約期間や雇い止め問題についても交渉に応じざるを得ない状況に追い込まれた。そこで都は、特別職職員から団交権や争議権など労働基本権を奪うために、今年4月に消費生活相談員などの一部特別職を、労組法が適用されない一般職の非常勤職員に変更した。さらに、基本権を持つ特別職が残る職場で、公共一般役員が集中していた「CAD製図科」を廃止、雇い止めを強行した。

 公共一般の小林雅之副委員長は、特別職職員が加入する組合を弱め、つぶすことが目的だったと見る。「CAD製図科の廃止は組合つぶしであることは明らかだ。組合を攻撃することで、特別職が持つ団結権を根絶やしにしたいのだろう」と語っている。

〈用語解説〉義務的団交事項

 使用者には団体交渉に応じる義務があります。なかでも、労働条件などがテーマの場合は、必ず交渉に応じなければなりません。一方、純粋に経営権に関わる事項について、使用者はこの義務を負いません。とはいえ、一見経営権の問題のような「企業閉鎖」などについても、組合員の雇用や処遇に関わる問題が生じる場合は、交渉に応じる義務があります。実際に該当するかどうかは、労働委員会や裁判所が個別的な事情を考慮し、判断しています。(連合通信)

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