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2015年 9月08日

赤紙配った歴史繰り返さない
〈安保法案・労組幹部インタビュー〉

自治労連 猿橋均委員長

   ――自治労連が戦争法案に反対する一番の理由は?
 猿橋委員長 先の戦争で自治体は国家の下請け機関とされ、先輩たちは赤紙(軍隊への召集令状)を配らされた。戦後の再出発に当たり、自治体労働運動は「こんなことは繰り返してはならない」「二度と戦争はしない」と誓った。それが私たちの原点だ。

 実際に赤紙を配ったのは市区町村の兵事係吏員。誰を軍隊に送るかは軍が決めるが、実際に届けたのは自治体労働者である。さらに、兵器などをつくるため、国家総動員法による金属等回収令により、鍋・釜に至るまで、個人の財産を取り上げた。自治体病院の職員をはじめ、労働者自身が徴用で駆り出された歴史もある。

▼首長らの認識に変化

 ――自治体は全く国家の言いなりだった?
 猿橋 明治憲法の下でも、極めて不十分とはいえ、地方自治は存在した。しかし、実際には軍部の判断で、自治体を国の出先とすることがどんどん進められていった。戦争を遂行するには、自治体を無条件で国の政策に従わせる必要があったのだと思う。戦争になれば自治体と職員は巻き込まれる。そんなことは二度とゴメンだというのは、自治体労働者であれば共通認識にできるのではないか。

 ――今、首長たちはどういう認識ですか?
 猿橋 自治労連は2年前の大会で「憲法をいかし、住民生活を守る」ことを、「自治労連の特別な任務」とする3年間の方針を決定した。その具体化として、全自治体への憲法キャラバン実施を掲げ、現在も進めている。今年から、自治体訪問とあわせて、首長に憲法や戦争法案についてのメッセージを要請したが、5月からの3カ月弱で49人もの首長がメッセージを寄せてくれた。画期的なことだ。

 ――そんなに珍しいことですか?
 猿橋 「首長のメッセージ」となると、そう簡単ではない。事実、昨年のキャラバンでは、憲法や集団的自衛権の問題は「国の専管事項だから」との対応が目立った。それが1年経ったら、大きく変化した。首長から戦争法案や安倍政権への批判や懸念が語られる、こんなことは初めてだ。自治体が戦時体制に巻き込まれてしまうことへの強い危ぐがあるのではないか。
これでは住民守れない

 ――例えば?
 猿橋 今回のキャラバンの中では、何人もの首長から国民保護計画に関する危ぐが語られた。2004年に成立した国民保護法に基づくもので、自治体は有事に備えて住民の避難・救援の計画を立てることになっている。十分かどうかは別にして、ほとんどの自治体で計画がつくられている。
 戦争法案が成立すると、政府の判断で戦争が始められる。もしそうなれば自治体としても、住民の生命と財産を守るために、新たな計画の策定が求められる。しかし、政府は今回、国民保護法は改正しないと言う。戦争があまりにも現実の問題、身近な話になってしまう事態を避けたのだろうが、自治体はそれでは困る。

 ――どうしてですか?
 猿橋 住民の命を守るための計画をつくろうとしても、つくれない。特定秘密保護法によって、この種の大事な情報は自治体にも示されない。例えば、米軍の基地や施設、自衛隊基地を抱えている自治体はどうすればいいのか。戦争法案に賛成であろうと反対であろうと、住民を守らねばならない点では同じ。何人かの首長からは、戦争法が必要というなら、情報もちゃんと出すべきだと指摘していた。

▼憲法生かす提言を

 ――自治体でも大きな変化が起きているということですね。
 猿橋 公務の仲間や地方労連とも一緒に憲法キャラバンをやっている。われわれの力だけで変化をつくりだしたわけではないが、ここは確信にしてもいいと思う。
 自治体が政府に怒りを表明しはじめたのは、戦争法案の問題だけではない。地方創生といいながら、現場の声も聞かずに国で決めたことを押し付ける。住民のために市町村が努力してきたことを認めず、対等の存在として扱わない――そんな国の姿勢にも憤っているのだと感じる。

 ――自治労連として今後どう運動していきますか?
 猿橋 まずは3年間で「全自治体訪問」という目標をやり切ることに全力を上げる。加えて、自治体労働組合にふさわしい活動をやろうと提起している。戦争法案反対の集会やデモ、宣伝といったことはもちろん大事だけれど、さらにやるべき仕事がある。
 例えば、先ほど触れた国民保護計画の問題や、多くの自治体が行っている非核平和都市宣言を今どう生かすのかという問題で、住民のみなさんと一緒に提言や提起もしたい。さらに憲法をいかす観点でどんな自治体をつくるのかを、住民・市民の運動とも連携しながら提起していく取り組みを進めたいと考えている。

命奪う戦争への加担許さず/日本医労連 三浦宜子書記長

 ――安保法案に対する見解を教えてください。
 三浦書記長 医療との関わりで言えば、かつて従軍看護婦として戦地動員された方々は3万人に上り、戦地では治療らしい治療もできず、多くの看護婦が命を落としました。本来患者の命をまもるために尽力する医療労働者が戦争に組み入れられ、命を奪う行為に加担してしまったという苦い経験があります。戦争が起きれば真っ先に動員されるのは医療労働者という事実は過去も現在も同様です。 日本を戦争のできる国につくり変える戦争法案(安保法案)は、命を救うために働く医療労働者の理念とは本来的に相いれないもの。医労連では全国の組合員からカンパを募り、9月5日の朝日新聞に「いのちをまもる医療・介護・福祉労働者は『戦争法案』に反対です」という意見広告を出しました。

▼9条と25条守り抜く

 ――医労連は、戦争のできる国になれば社会保障分野にも大きな影響があると指摘していますね。
 三浦 今年度の軍事費が過去最高の5兆円となる一方で、社会保障費の削減が進んでいます。国民の貧困対策には手が尽くされていません。既に医療費抑制に伴い、経済的理由で医療を受けられない方々が増加し、看護や介護の人手不足も深刻です。
 現在の日本では9条だけではなく、人間らしい健康で文化的な生活を保障する憲法25条も危機にあります。「大砲よりもバター」という言葉の通り、今必要なのは平和の下で健康に暮らしていく基盤です。憲法9条と25条はセットで守り抜いていく必要があります。

▼他国の戦争に動員

 ――戦争法案が成立すると、医療従事者にはどんな影響がありますか?
 三浦 今ある「武力攻撃事態対処法」や「国民保護法」の下で、国立病院と日本赤十字社の病院は戦時協力を行う「指定公共機関」に位置付けられています。政府が必要と判断すれば、民間を含めて対象を広げることができ、「自衛隊法103条」は傷病兵の治療・救護を医療従事者に命じることができるとされています。既に医療機関・医療労働者が戦争協力の義務を負っている状態です。
 この法案によって、日本が直接攻撃されていない「存立危機事態」が加わり、集団的自衛権行使が可能になれば、米国の要請によって自衛隊と共に医療労働者が「業務命令」の一環として他国の戦争に動員されることになりかねません。いったん戦争状態となれば自衛隊や米軍兵士など多数の傷兵を日本の医療機関が受け入れる事態も想定されます。
 看護師不足や病床削減が問題となっている日本の病院で対処できるのでしょうか。一般の患者を追いやることとなり、医療体制が崩壊しかねません。

▼職場で真剣な議論

 ――12万人以上が参加した8月30日の国会前行動はすごかったですね。
 三浦 20年以上組合の活動をしてきましたが、あれほど多くの人々が国会前で声を上げたのを見たことがありません。ワンパターンのデモではなく、家族連れで来る、歌を歌う、手作りのプラカードでアピールするなど、参加者が知恵を絞ってそれぞれの思いを訴えていました。「法案反対」にとどまらず、今の政治のありようを敏感に感じ取ったからこそ、あの人数になったのだと思います。

 ――医労連は全国の単組に「戦争法案反対」の職場決議を呼び掛けています。組合員からはどんな声が寄せられていますか?

▼先輩らの誓い引き継ぐ

 三浦 現在147単組・支部、246職場で職場決議が上がっています。これまでこうした問題に関心のなかった組合員とも議論が深まったと実感しています。決議用紙に添えられたコメントを読むと、各職場で真剣な話し合いが行われたことが分かります。

 岡山医療生協労組、倉敷医療生協労組は9月1日に戦争法案反対の指名ストを行いました。一時金などの回答指定日前の政治ストに、職場から「なぜストライキか」の声も出されましたが、「法案によって自分たちの労働が脅かされる」「国民の生活にも直結する」という問題意識が組合員のなかで掘り下げられた成果だと考えています。

 医労連は廃案に向けてあらゆる手を尽くしていきます。仮に強行採決されたとしても、そこで運動が終わることはありません。

 ――戦争についてご自身はどんな思いがありますか?
 三浦 戦争体験を語り継ぐ元従軍看護婦の方の話が強く印象に残っています。「バンザイと送りだされた兵士を待ち構えていたのは飢えと苦しみと死ぬことだけだった」という言葉です。

 元従軍看護婦の中には、戦地で動けなくなった兵隊を死なせる処置をしなければならなかったという方もいます。その方は「血管に空気を入れて死なせた兵士はとても苦しんでいた。二度とこんなことを繰り返してはならない」と語っていました。医療に携わる者が人の命を奪う戦争に加担してはならない、否応なく人を傷つける戦争をふたたび繰り返してはならない、と語った先輩方の誓いを引き継いでいきたいと思っています。(連合通信)

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