安心のファシズム

支配されたがる人々

岩波親書・斉藤貴男著

 2004年4月、イラクのバクダットで3人の日本人がイラク人に拉致されました。そのとき日本では、週刊誌やマスコミが公安情報を元ネタに個人攻撃と「自己責任論」を沸騰させました。もうすでに明らかになっていることですが、「自己責任論」の出所は政府内からでした。
 外務省を中心にした「人質解放」がうまくいくはずだったのに、「開放」が遅れに遅れました。その時、日本には「おそらくもうだめだろうという雰囲気が日本を被いかけたタイミングで、小泉政権は事件の責任をすべて被害者に押し付ける世論形成を図り始めた」(斉藤貴男)。
 いま日本には、すべての分野で「自己責任論」がまかり通っています。福祉も医療も「自己責任」で片付けられ公的責任が免罪されています。「安心のファシズム」は、「自己責任論」から始め、「監視カメラ」「携帯電話」「自動改札機」などから情報による国民管理へ論理が展開されます。
 そして、ファシズムへの道につながっていく「社会ダーウィニズム」を解き明かします。「社会ダーウィニズム」とは、ダーウィン進化論の「自然淘汰・適者生存」という概念を、人間社会の説明にそのまま流用した思想。適者生存である以上、人間社会には淘汰のメカニズムが働いているので、進化した人間が高い社会的地位を獲得しているのであり、それらを獲得できない者を進化の遅れた、劣った人間であると見下していく思想。
 自民党の憲法改悪、小泉首相のファシズム性、この本を呼んでいると日本のファシズム化は将来不安、逼塞状態にある「民衆」の心に進入し、もうそこまで来ていると感じる。大げさでもなんでもない、そこまで仕組んできたメカニズム、いまの現実を知る一冊です。
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