江戸に心から愛されている一膳飯屋がありました。


だいこん

著者山本一力 光文社

  直木賞作家・山本一力さんの世界は、江戸時代の深川や浅草界隈、市井の人情物語が多い。「だいこん」は、浅草並木町という裏だなで生まれ育ったつばきの物語。 父は腕のいい大工。比較的高い仕事賃で、長屋で暮らしていたが、博打に手を出して、10両もの借金を抱える。利子の返済だけで生活が圧迫され、貧乏のどん底につき落とされる少女・つばき。
 天明の大火の中で、長屋の人にご飯炊きをおそわる。ここで「ご飯をおいしく炊く才能に恵まれている」ことを知る。
 やがて一膳飯屋を妹2人と母親で開店する。借りた店の裏に畑があり、ここでだいこんをつくり、おいしいご飯とともにだす。これが大ヒット。次々のアイディアが生まれ浅草の評判になる。
 つばきの気風、ストーリーの展開、テンポ、人情、ホロッとくる場面が随所にある。心温まる小説だ。
 希望を胸に身一つで京から江戸へ下った豆腐職人の親子2代にわたって描いた「あかね空」で、第126回直木賞受賞した山本一力さん。高知県出身で、東京の工業高校電気科を卒業した異色の作家である。
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