E 京都迎賓館 


平成の愚挙・ムダと環境破壊

             御苑を愛し続けてきた地元住民の声

 国内で2つ目の国公賓迎賓施設「京都迎賓館」が、4月17日、京都市上京区の京都御苑内にオープンしました。小泉首相をはじめ三権の長、元首相、地元関係者らが出席して開館披露式典が行われたこの日、10年以上にわたって迎賓館建設に反対してきた地元住民のグループは「平成の愚挙・京都迎賓館」と書いたプラスターで無言の抗議行動をしました。2百億円を超す大型公共事業の問題点を改めて考えてみました。

  京都御苑は「国民公園」建設禁止区域だった

 京都御苑の東側、寺町御門のすぐそばに住んでおられる守津忠義さんを訪ねました。「『京都御所』は『京都御苑』の一部。京都御苑は、日本に3つしかない『国民公園』の1つです」
 今回、「京都迎賓館」が建てられた「京都御苑」は、もともと皇室財産だったものが、戦後、京都御所・仙洞御所以外の区域が国民に開放されました。京都府が各界各層の意見を聴いた結果、永久に緑地として保存し国民のオアシスとして開放することを決め、その旨を都市計画に位置づけたのです。その結果、御苑は開発から守られ、タシロランなど稀少種を含む400種以上の植物、60種以上の鳥類、樹齢150年以上の巨木など豊かな自然を保ち続けてきました。散歩する親子連れや木陰で一服するサラリーマン、ジョギングする人…、市民の憩いの場となっています。この京都御苑に宿泊施設を建設できるよう、京都府と京都市の都計審が「地元利用」「国際交流」の大義名分で強引に都市計画を変更し、国会が京都御苑の一部を国民公園から外す決議をしたのです。

  自然と文化を破壊して建てられた京都迎賓館

 「私が迎賓館問題に深くかかわり出したのは、文化財発掘調査がすすみ、建設予定地の野球場の代替グランドが、富小路のうっそうとした森を削ってつくられ始めた頃からです。また、清和院御門の周辺の住民が、迎賓館のための電気・ガスなどのインフラ工事の振動・騒音などに悩まされていた頃でもありました。結局、4面あったグランドは半分に減らされました。荒巻知事(当時)は『松の木一本切らない』と約束していたのに、約500本の樹木が移植され、そのうち巨木を含む数10本が枯死し、今も植物や野鳥の数が減り続けています。情報公開請求したら、移植費用だけで7億4千万円かかっていました。私たちは『迎賓館建設に反対する御所周辺の会』というのをつくって、目の前で起こることを追っかけました」
 「何億円もかけて行った埋蔵文化財調査では、ここにしかない公家町の遺構がでてきました。しかし、地下駐車場のためにいとも簡単に破壊されてしまいました。今度の迎賓館を『まさに現代の国宝だ』と言った人がいますが、貴重な文化遺産を破壊し、地下数メートルも掘り起こし、セメントを流し込んで「鉄筋の木造建築物」が建てられていくのを私たちは見てきました。取り返しのつかないことをしています」守津さんは、悔しそうに語ります。

  発端は京都財界知事の中央陳情

 世界に2つも迎賓館をもっている国はないそうです。東京の赤坂迎賓館ですら、昨年度の利用回数はたった3回、年10回が最高というのに。しかも京都迎賓館の目と鼻の先には、故ダイアナ妃らも宿泊した大宮御所という国賓の迎賓施設がすでにあります。国家財政が厳しいときに、年に何回使われるかわからない施設に、200数十億円もの税金を使う必要がどこにあったのでしょうか。
 そもそも迎賓館建設は、1994年の平安建都千二百年事業として京都財界・京都府・京都市が誘致したもの。旧大蔵省は当初、巨額の事業費に難色を示していましたが、自民党の金丸副総裁(当時)の「ツルの一声」で予算がついたとか。建設施行業者は、大手ゼネコンの鹿島、大林、竹中を中心とするJV(共同企業体)が落札しています。
 「当初、建設費用は、国・府・市・財界で1/4ずつ負担するとされ、運営費も地元が応分の負担をするという約束を国と交わしていたようです。しかし、バブルがはじけ、地元負担の話が消えるなか、運営権は内閣府が握ることに。『地元に協力を求めますが、利用は制限します。管理もすべてうちで行います』と内閣府は言っていますし、もちろん、平成17年度の運営費6億8千万円は国の税金です」守津さんの住む春日学区でも建設前には、赤坂の迎賓館と違って地元利用ができると宣伝されていたのが大きく崩れたそうです。

  迎賓館開館の府民的メリットは何?

 「市民への公開や利用がどうなるのか、御苑出入りの制限があるのかなど、聞きたいことはたくさん残っていますが…」約束を破り続けてきた行政への不信をもちながらも、守津さんは、これからも目を光らせ、「国民公園・京都御苑」を守り育てる決意を新たにしています。
 「和風」迎賓館として京都の伝統文化と技を集大成したものだと言われていますが、一部の賓客しか見られないようなものでは、建設工事や調度品に発揮された京の職人の技術力をアピールすることにはなりません。山田知事や京都財界は、2008年のサミット(主要国首脳会議)を京都迎賓館の活用を視野に誘致する考えのようですが、世界に向けた発信だけでなく、冷え込んだ京都経済や要人が来るたびに敷かれる厳重警備に迷惑する御苑利用者や周辺住民に何を発信できるのか、知事・市長の態度が問われています。
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