D 「京都府伝統

  産業振興条例」 


「織額」で仕事おこしのきざし・伝統産業への公共事業

 春分の日をはさんだ3日間、京都市内は着物姿の人が目立ちました。京都市が設定した「伝統産業の日」の企画として、伝統工芸品の展示会や工房の見学ツアーなど、市内各地で多彩なイベントが行われ、着物を着た人には市バス・地下鉄が無料になったり、美術館や博物館の入場が無料や割引にされました。
 消費不況・海外生産で産地の縮小が進む西陣や友禅、京都府も「伝統産業振興条例」の策定にむけて委員会をたちあげました。和装伝統産業の振興施策について、西陣の職人グループの人たちの声を聞いてみました。(織額を織る西陣の職人さん)

 学校に私の織った西陣織の額が…

 「かかわった職人、みんなが喜んでいます」上京民商事務局長の村上栄一さんは嬉しそうに話されます。西陣の職人グループに明るい話題となったのは、国の雇用創出事業を活用した京都府の「京の伝統工芸品教育活用推進事業」です。小・中学校から依頼された加茂川や北山杉、長岡天満宮、万福禅寺の木魚、木津川の流れ橋、大江山の雲海など府内各地の風景や学校の校舎の様子が、西陣織で写真のように織り上げられました。「自分たちがつくったものが学校に飾られるなんて」と、それ自身が職人さんたちの大きな喜びとなり、ものづくりの意欲を引き出しました。(仕上がった「織額)

 現場の職人に光があたった

 この事業は、本来、京都府が雇用対策として行うべきものを産地組合である西陣織工業組合に依頼したものです。全西陣織物労組、民商、北上地区労などでつくる西陣問題対策協議会が「仕事のない職人に回してほしい」と西陣織工業組合に要望するなかで、任意グループにも仕事受注が実現しました。下請け職人がはじめて横請けでグループを組み、自分たちで完成品をしあげたことは今までなかったことだそうです。3年目にあたる今年度は新たに共同で織機を購入し、織り方にも新しい技術を導入しました。この事業を通じて業者同士のものづくりのネットワークもつくられてきました。「仕事確保と技術の伝承と子どもたちへの伝統産業の情報発信という一石三鳥の事業です」かねてからこういう事業を京都府に要請してきた村上さんたちにとって、光が見えてきたとの思いが広がっています。「織額をアート事業として検討してはどうか」という西陣織工業組合の関係者の声もあり、今後につながる仕事への期待も出てきています。

 伝統産業への公共事業の継続  

 来年度の京都府予算では、国の緊急雇用創出基金の廃止にともない、府が雇用創出事業の多くを廃止するなかで、「京の伝統工芸品教育活用推進事業(1億円)」「伝統産業『京の職人さん』雇用創出事業(1億円)」が「匠の公共事業」として府単費1億円で継続されることになりました。「予算は半減するが、府の独自予算の意味は大きい。産地を支える中小業者がより活用しやすいものにしてほしい」職人グループの期待は、和装伝統産業の関連予算全体が2・2億円に削減されたもとで、切実さを増しています。

 長期戦略とともに緊急対策を 

 西陣帯の生産量は、全盛期の2割以下にまで落ちこんでいます。産地の縮小、空洞化の進行は危機的な状態です。後継者問題、部品の歯抜け問題も深刻です。「長期戦略とともに緊急対策が急がれます。『織額』のように仕事をつくって効果をあげているものもあれば、単なるイベントで終わっているものもある。行政は産地組合だけでなく現場の職人の声、事業所の実態を調査して、これまでの振興施策の中で何があたったか、あたらなかったか、よく総括し、急いで緊急対策の具体化を図ってほしい」村上さんは強調します。

 府の役割を明確にした「伝統産業振興条例」を

 京都府は昨年末、「京都産業活性化プラン」を公表するとともに、「伝統産業の振興に関する条例策定委員会」を立ち上げました。そのなかで、伝統産業を「京都を代表する産業」「府民共有の財産」として位置づけ、「伝統産業が産業として再生・発展し、次世代へ確実に伝承されるよう、行政の果たすべき役割などを定める条例を検討する」としています。
 策定委員会の第1回会合で「多くの委員がこれまでの施策では十分に振興が図れていないと指摘」(04年12月26日毎日新聞)したように、何が今日の危機を招いたのか、府のこれまでの施策との関連で明らかにする必要があります。また、京都府の役割・責任を明確にするうえでも、条例の中に予算措置条項を盛り込む必要があります。企業誘致の進出企業への補助金が1社で最高20億円、不況であえぐ和装伝統産業の予算全体で2億2千万円。京都府の本気が問われています。
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