広島「平和宣言」(全文)

 6日、.広島市の平和記念式典で秋葉忠利広島市長が読み上げた「平和宣言」(全文)は次のとおりです。

 「75年間は草木も生えぬ」と言われたほど破壊し尽くされた8月6日から59年。あの日の苦しみを末だに背負った亡骸(なきがら)一変する人々そして未来への思いを残しながら幽明界を異にした仏たちが、今再び、似島に還り、原爆の非人闇性と戦争の醜さを告発しています。
 残念なことに、人類は未だにその惨状を異に記述するだけの語彙(ごい)を持たず、その空白を埋めるべき想像力に欠けています。また、私たちの多くは時代に流され惰眠を負(むさば)り、将来を見通すべき理性の眼鏡は曇り、勇気ある少数には背を向けています。
 その結果、米国の自己中心主義はその極に達しています。国連に代表される法の支配を無視し、核兵器を小型化し日常的に「使う」ための研究を再開しています。また世界各地における暴力と報復の連鎖は止むところを知らず、暴力を増幅するテロへの依存や北朝鮮等による実のない「核兵器保険」への加入が、時代の流れを象徴しています。
 このような人類の危機を私たちは人類史という文脈の中で認職し直さなくてはなりません。人間社会と自然との織り成す循環が振り出しに戻る被爆80周年を前に、私たちは今こそ人類を未曾有の経験であった被爆という原点に戻り、この一年の間に新たな希望の種を蒔(ま)き、未来に向かう流れを創らなくてはなりません。
 そのために広島市は、世界109国・地域、611都市からなる平和市長会議と共に、今日から来年の8月9日までを「核兵器のない世界を創るための記憶と行動の一年」にすることを宣言します。私たちの目的は、被爆後75年目に当る2020年までに、この地球から全ての核兵器をなくすという「花」を咲かせることにあります。そのときこそ「草木も生えない」地球に、希望の生命が復活します。
 私たちが今、蒔く種は、2005年5月に芽吹きます。ニューヨークで開かれる国連の核不拡散条約再検討会議において、2020年を目標年次として、2010年までに核兵器禁止条約を締結するという中間目標を盛り込んだ行動プログラムが採択されるよう、世界の都市、市民、NGOは、志を同じくする国々と共に「核兵器廃絶のための緊急行動」を展開するからです。
 そして今、世界各地でこの緊急行動を支持する大きな流れができつつあります。今年二月には欧州議会が圧倒的多数で、6月には1183都市の加盟する全米市長会議総会が満場一致でより強力な形の、緊急行動支持決議を採択しました。
 その全米市長会譲に続いて、良識ある米国市民が人類愛の観点から「核兵器廃絶のための緊急行動」支持の本流となり、唯一の超大国として核兵器廃絶の責任を果たすよう期待しています。
 私たちは、核兵器の非人間性と戦争の悲惨さとを、特に若い世代に理解してもらうため、被爆者の証言を世界に届け、「広島・長崎講座」の普及に力を入れると共に、さらにこの一年間、世界の子どもたちに大人(おとな)の世代が被爆体験記を読み語るプロジェクトを展開します。
 日本国政府は、私たちの代表として、世界に誇るべき平和憲法を擁護し、国内外で顕著になりつつある戦争並びに核兵器容認の風潮を匡(ただ)すべきです。また、唯一の被爆国の責務として、平和市長会議の提唱する緊急行動を全面的に支持し、核兵器廃絶のため世界のリーダーとなり、大きなうねりを創るよう強く要請します。さらに、海外や黒い雨地域も含め高齢化した被爆者の実態に即した温かい援護策の充実を求めます。
 本日私たちは、被墾60年を、核兵器廃絶の芽が萌え出る希望の年にするため、これからの一年間、ヒロシマ・ナガサキの記憶を呼び覚ましつつ力を尽し行動することを誓い、全ての原爆犠牲者の御霊(みたま)に哀悼の誠を捧げます。
                                   2004年8月6日
                                   広島市長 秋葉忠利