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2018年03月01日

狙いは個人事業主化の拡大
〈副業・兼業の解禁〉

伍賀一道金沢大学名誉教授

  厚生労働省は昨年末、政府の「働き方改革実行計画」に基づき、副業・兼業の解禁、非雇用型テレワークの環境整備などの指針を整備した。この狙いや問題点について、伍賀一道金沢大学名誉教授(社会政策論)に聞いた。同教授は人工知能(AI)などの技術革新を理由に、雇用労働者を個人事業主に広く置き換える狙いがあると指摘。安定社会とは逆の排他的な競争社会の到来を懸念する。近い将来予測される「人余り社会」に備え、今からディーセントワーク(働きがいのある人間らしい労働)を基盤とする政策、異次元の労働時間短縮、ワークシェア、大量失業に備えた最低生活保障の整備を行うべきと提唱する。

▼技術革新を口実に
 
――労使ともに反対、慎重姿勢の副業解禁の狙いは何でしょうか?
 伍賀 AIやIoT(インターネットとモノの結合)などの技術革新を見越し、「雇用関係によらない働き方」、雇用労働者の個人事業主化を広げようとしていると考えます。このことは経済産業省の研究会報告書(2017年)にも書かれているように、技術革新により企業組織や産業組織の変化が激しくなり、企業はこれまでのように労働者を雇用するのではなく、もっと「労働力の調整」が容易な個人事業主の活用への転換が必要と考えているのではないでしょうか。

 それを裏付けるかのように、昨年7月に始まった労働政策審議会の労働政策基本部会は「技術革新の動向と労働への影響」「時間・空間・企業に縛られない働き方」について検討し報告書をまとめる方針を示しています。

 ――副業は個人事業主として仕事をすること?
 副業先でも雇用するならば、使用者は労働時間管理を複数の会社をまたいで行わなければなりません。現行法の運用ルールです。通算して週40時間を超えた分、少なくとも副業先はたとえ1時間の労働であっても時間外割増を支払う義務を負います。実務的には大変煩雑です。社会保険料の徴収も同様です。

 しかし、個人事業主の契約にすれば、これらの問題は一挙に解決します。労働基準法や雇用保険法は適用されないのですから。最低賃金法、労災保険法などの労働者保護規制も適用されず、社会保険料や一時金、退職金などのコストも不要になります。
 労働者の権利がなく、発注主の指揮命令で働く〃究極の非正規労働〃というべき働かせ方のまん延と、適用対象者の減少による労働者保護規制の形骸化が危惧されます。
 本業で働いた上に副業をするので確実に長時間労働になります。副業を行う人が過労死した場合、使用者の安全配慮義務が本業と副業先のどちらにあるのかの判定は難しく、労災認定も働く側に不利になるのではないでしょうか。

▼労働者の使い回しが

 ――昼は本業で働き、夜は関連子会社や協力会社で個人事業主として働く「副業」が増える懸念はないでしょうか?
 その懸念は当たっていると思います。悪質な使用者が労働時間規制を逃れるために個人事業主として活用する可能性は十分あります。
 大手コンビニチェーンは人手不足解消のために、店舗間でパートやアルバイトの店員を融通し合う実験を始めると報じられました。労働者をシェアリングする「人材活用アプリ」も開発するといいます。
 A社が雇用する労働者をB社が受け入れれば、B社は正社員を減らせます。個人事業主として受け入れれば、いつでも「労働力の調整」が可能となります。グループ企業間での労働者の使い回しが懸念されます。

 ――フリーランス(個人事業主)について、(優越的地位の乱用防止など)独占禁止法で保護すべきとの見解を公正取引委員会がまとめました。
 労働法の拡張適用ではなく、独禁法を適用するという方針は労働者保護機能を低下させるのではないでしょうか。最低賃金のような報酬の下限規制、就業時間規制は期待できません。近年インターネットで仕事の受発注の仲介を行う「クラウドソーシング」という職業紹介に類似した事業が出てきています。職業安定法の適用や、難しければ働き手を保護する立法が必要になるのかもしれません。

■ディーセントワーク実現を

 ――政府は雇用関係によらない働き方を増やす方向ですが、技術革新で経済・社会構造が変化するので仕方がないのでしょうか?
 当面は人手不足が続きますが、そう遠くないうちに技術革新による「人余り社会」への転換が予測されます。その対応はディーセントワーク(働きがいのある人間らしい労働)を基盤とすることが肝心。そのためには異次元の労働時間短縮、ワークシェアリングと最低生活保障の具体化が必要です。ドイツの金属産業労組(IGメタル)が育児・介護の責任を負う労働者について、週28時間労働(最大2年間)の労働協約を締結しました。
 このように技術革新を暮らしの向上に生かしていく方向にかじを切るべきではないでしょうか。経産省は、個人事業主であるフリーランスの技術を向上させることで、彼らの生活の安定につなげようと考えているようですが、個人事業主化の方向は猛烈な受注競争を招きます。安定した社会とは逆の、仕事を奪い合い他人を排除する、排他的な社会の到来が懸念されます。

▼米国がモデルか

 ――大幅な処遇改善をすると、グローバル競争に勝てないと言われそうです。
 その議論の行き着く先は「底辺への競争」です。国際労働機関(ILO)は2006年に「雇用関係に関する勧告」を採択し、個人事業主を偽装することで雇用労働者の労働基準(働く者を守る最低限の規制)をすり抜ける動きを警告しました。「底辺への競争」に歯止めをかけることが今、問われているのです。日本もその方向で国際社会と歩調を合わせるべきです。

 しかし、安倍政権は「非正規という言葉をなくす」などと威勢のいいことを言いながら、権利が全く保障されない〃究極の非正規労働〃というべき個人事業主的就労を広げようとしています。
 米国は「インディペンデントコントラクター」と呼ばれる個人事業主を偽装する働き方が多い国です。経産省や政府、周辺の学者らは米国社会をモデルに想定しているように思われます。残業代が支払われない高度プロフェッショナル制も米国のホワイトカラーエグゼンプションという制度がモデルです。
 
 ――最低生活保障とは?
 まずは過労死ゼロ社会、最低賃金時給1500円の実現です。雇用面の整備に加えて、子育て、教育、介護、住宅など、人が生きていく上で必要な保障を国が責任を持って行うなど、大量の失業に備えた、社会的公共サービスの充実が欠かせません。そのための税制や社会保障など社会システムの転換が急務です。 (連合通信) 

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