「祖父を訪ねて数十里」

落語作家・笑工房代表 小林康二

 今月4歳になる孫が来る毎に「母をたずねて三千里」を読み聞かせる。幼子マルコが、南米アルゼンチンへ出稼ぎに行き音信が途絶えた母を、たった一人で訪ねるテレビアニメの絵本だ。

 18世紀末のアルゼンチンは世界屈指の経済大国で、ヨーロッパからの出稼ぎや移民で溢れた。原作(アミーチス「クオーレ」)にも、出稼ぎ女性が数年間に大金を稼ぎ故郷に帰るとある。

 だが、アルゼンチンは19世紀初頭に国債のデフォルト(債務不履行)から、その経済的地位を失い、以後2世紀間に債務不履行を繰り返し、2001年のそれでは90%以上の債権者と債務70%切り捨てで合意した。ところが、これに不同意な少数の債権を、米投資ファンドが二束三文で買い取り、「全額支払い」を求め米最高裁で勝訴した。アルゼンチン政府は、この判決に従えば全債権者に全額支払い義務が生じるところから、これを拒否して目下交渉中だ。

 どんな経済大国も、借金が膨れると国家は破綻し国民は長く苦しむ。日本も例外でない。問題はその時期だ。それが分かれば為替差益で大儲けできるが、「相場は相場に聞け」の格言通り、誰にもそれは分からない。ただ日本はその時期が遠くないことは確かだ。

 さて、マルコが4月にイタリアのジェノバを出港し、ツクマンで母に合えたのは冬だ。ところが私の孫は高知から新大阪間のわずか数十里・約4時間 を「一人では嫌や」と、祖父を訪ねて来ないのだ。親の育て方? 環境の相違? それとも祖父に対する敬愛の欠如? マルコの爪のアカを煎じて飲ませたい気分だ。